インタビュー

INTERVIEW-Vol.17 ジャン・ジャック・マイヨール

映画『グラン・ブルー』の主人公のモデルにもなった、世界的に有名な伝説のフリー・ダイバー、ジャック・マイヨールさん。その息子、ジャン・ジャック・マイヨールさんが日本を訪れていたのは、2018年の秋だった。地球や海、生き物を愛する気持ちを共にする仲間達と、「Ocean Awareness オーシャンアウエアネス〜海を想うこと〜」をメッセージとして、自然界の現状を伝え、生き方を見つめ直す機会を共有する--そんな目的で日本各地を回り、ワークショップやトークショーを開いていた。彼に会ったのは、沖縄、小笠原の旅から戻った後だった。

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Jean-Jacques Mayol/写真 横山泰介
父、ジャック・マイヨールさんが提唱した“Homo Delphinus(ホモ・デルフィネス=イルカ人間)というコンセプトを引き継ぎ、イタリア・エルバ島で、アプネア(素潜り)とヨガ、呼吸法を通して、海と自然とつながり、自身の内面とつながるレッスンを行う。J.J.の愛称で親しまれている。

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN(以下SFJ):今回の旅に託した思い、「オーシャンアウエアネス」について、少し詳しく教えていただけますか。

男性女性かかわらず、すべての人に海に対する“アウエアネス(気づき)”を持ってほしいなという目的をもって旅をしました。父ともよく話していたのは、「人は何者であるかを忘れてしまったよね」ということ。まず最初に自分が何者であるか、地球上でどういう存在であるのかを、素潜り、ヨガ、呼吸法、自然、海やイルカを媒介にして、もう一度思い出し、再発見してほしいという思いです。それによって地球上にもっとバランスをもたらした生き方ができるのではないか。そんな風な気づきが増えれば、人は自然と自分自身を切り離さずに考えられるのではないかと。きっと内側から、なにかが湧き上がってきて行動に移す。そういった気づきは、人が行動に移す前に必要です。そのきっかけをつくるのが、私の仕事であり、人生であり、活動なのです。決して教えたり、教わることではなく、父がそうであったように、自らのあり方をみせることで、インスパイヤされる人がいたらいい。その結果、環境のことを考える行動へと進化すのではないかと。今回日本でのツアーは終了しましたが、これは日本だけではなく、世界のためにやっていることなのです。これで終わりではなく、ここからが始まりだと思っています。

SFJ: 世界中の海を旅して実感されていると思いますが、海の環境でどんなことが起こっているのでしょうか。

海だけでなく、陸上も、川や湖、すべての水において汚染が進んでいます。解決策はわからないのですが、今、私達が最も話し合う必要があることです。また世界中の生き物が減っているのです。原因はプラスティックの問題、漁業資源の乱獲など様々ですが、一言でいうと、バランスが崩れていってしまっているということ。その一方で、商業主義がはびこってしまっているという現状。今回、日本各地で色々な方と話したのですが、小笠原の人が言うには、50年前は全く違い、海が豊かで、イルカやマグロが海岸まで来たり、ロブスターが海に沢山いたそうです。私が子供の頃に、タークス諸島、ケイコスアイランドで見たような風景がそこにあったのです。ただその反面、物事はポジティブとネガティブが同時に起こるように、人々の環境に対する意識はどんどん高まってきています。世界中で環境に対する「グローバル・アウアネス」は広がり、盛んになってきています。多くの国で緑を豊かにするための「グリーンムーブメント」活動に力を入れ始めています。漁獲量を制限したり、海洋保護区を作ったり、ビーチクリーンの活動も増えています。活動が盛んなところは、実際に生き物の数が増え、環境がよくなっている傾向もあります。

SFJ : 今回のプロジェクトで日本を周り、海に潜られて、どう思いましたか?

日本の海がとても好きです。座間見、沖縄、鎌倉、小笠原、館山と北から南まで、非常に生き物の多様性があって、特に小笠原は海底に急なドロップオフがあって、生き物の影がとても濃いユニークな場所です。ユネスコの保護区になっているのもよく理解できますし、今回、非常にいい体験ができました。

SFJ:生前から、ジャック・マイヨールさんが提唱していた“Homo Delphinus(ホモ・デルフィネス=イルカ人間)”とはどういった概念なんですか?

父ともよく話してはいましたが、オリジナルのアイデアをお知らせすることはできません、なぜならそれは父の頭の中にあったからです。私自身の哲学と編み込むような形での話になってしまうのですが、基本の概念としては、イルカをローモデルとして、ある意味「ポジティブで、自由で、純粋に生きる」アンバサダーとして、彼らのように調和を保った生き方をしていこうということ。もしできるなら、人間はイルカの社会をもう少し参考にしてもいいのではないかという考え方。その結果、人生をとても強く、前向きに捉えて生きることができる。同時に環境に対してもっと責任を持って生きるようになる、と。私達は、自分達の価値観と共に、どう生きるべきかをもう一度考え直す必要があります。生きるためにバランスをとるということは、必ずしも人間にとっての「ベスト」を求めるのではなく、全体にとって、それは動物や海をはじめとした、地球すべての環境にとって何がいいのかを考えていくこと、つまり「オーシャンアウエアネス」というところに立ち戻って考えることなのです。先にも言いましたが、まず自分の生き方を再評価していくことを始める必要があります。ホモデルフィニアスの一番の焦点は、「海」であり、海に戻るということなのです。たとえば海で子供を水中出産したり、心の開かれた人々の行動を通じて、ある意味、水陸両用、両生類みたいな海に親しんで行きていこうということまで目的にしています。

SFJ: J.J.さん、ご自身の活動はどういったものなのでしょう?

ホモデルフィニアスの概念を最初の地点として、そこから進化してきた部分もあります。アプネア(素潜り)を教える上で、テクニックや安全管理などだけでなく、もっと高い意識で生きることを伝えるという目的が加わってきています。マリンマモー(海洋哺乳類)と一緒に泳いだりすることで、ゆっくりとですが、高いレベルで自然とつながれるようになる。その上でどうやって地球に対して責任のある行動をとっていけるのかを伝えていけたらと思います。最初のオーシャンアウエアネスの話に戻りますが、そういう意識をもった上でどう行動をしていくかにつながっていくのだと思います。また、自然と向き合う結果、人は自分自身と向き合うことになります。今回お会いした多くの方が、新しい生き方を探していました。本当に充実した生き方、クオリティ・オブ・ライフへの移行をどうしたらできるかを探しています。たとえばある人は、「3台もクルマはいらない、2台を手放したら、今はもっと時間がある」と。社会に生きる多くの人は、「自分は何をしているんだ」と問いかけているのです。人生の時間はとても短いというのに、お金を儲けて、モノを買って、仕事に行って、それはほんとうに無駄で馬鹿馬鹿しいことだった、と。そう気づくことで人生の質が上がっていくのです。自分の活動のもうひとつの側面は、そういった人と深くつながることで、助けになるのではないかということ。それもアウエアネスなのです。日本だけでなく、フランス、イタリア、北欧など、世界中でそういった意識の変化が起こり始めています。ほとんどの人が認めたくないことかもしれませんが、実は社会的概念、つまり何をどう考える、どう言う、何を着るかなど、世界の人口の1パーセントがほかのみんなをコントロールしています。いまはそこから抜け出そうという動きに変わってきています。

SFJ: 自然や海を愛する人は、同じようなバイブスをもっていますよね。私達が、これからできることがあるとすれば、どういうことでしょうか?

オーシャンラバーは、互いにコンタクトを取り合って、そのバイブスを伝え合うことが必要です。頭の中にあることをシェアできるのが一番ですが、言葉にするのはなかなか難しいものです。私は、今回こうしたイベントで語る機会をいただけることをとても嬉しく、しあわせだと思っています。

SFJ: ダイバーもサーファーも含め、すべての「オーシャンラバーズ」に対してのメッセージはありますか?

オーシャンラバーは、ドリーマーでもあります。そこがとってもいい。私もドリーマーです。私がしているのは、夢から離れないで追いかけ続けていることなのです。時間もかかるし、時々、道を見失うこともあります。でも時間がかかったとしても、私達はそこにたどりつけるでしょう。どうか夢を追いかけ続けてください。

SFJ:とても興味深いお話をありがとうございました。

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葉山の海にて撮影。いろいろな表情を見せる日本の海はマイヨールさんもお気に入りだ。

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「私達はどう生きるべきかをもう一度考え直す岐路に立っている」と語るマイヨールさん。そのカギとなるのが、動物や海をはじめとした地球環境にとって何がいいのかを考える「オーシャンアウエアネス」だ。

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