INTERVIEW-Vol.22 志津野雷

写真家、映像作家として、地元・逗子をベースに活躍を続ける志津野雷さん。ライフワークとして映画『Play with the Earth』を撮り続けている。また、「逗子海岸映画祭」をスタートさせるなど地域と密接してカルチャーも発信。その活動への思いとは。

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志津野雷 / 写真  横山泰介

写真家。国内外を旅して、自然や人物を独自の視点で切り取る。「CINEMA CARAVAN」を主宰し、湘南・逗子で2009年から毎年開催される「逗子海岸映画祭」を立ち上げるなど、製作活動だけでなく、地域の新しいコニュニティづくりやカルチャーの発信にも力を入れる

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「水」をテーマに撮影を続けてきた志津野さん。初の写真のタイトルは『ON THE WATER』(青幻舎) Photo: Rai Shizuno

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ ) :まずは『映画『Play with the Earth』を撮り始めたきっかけを教えてもらえますか。

最初から「作品を作ろう」と思ってきたわけではありませんでした。2007年に青森県の六ヶ所村の再処理工場(青森県の核燃料の再処理工場)が問題になった時に、サーファーの仲間で実際に見に行きました。海の美しい風景の中に再処理工場があって、「あれ、世の中、こんなことになっているの?」と驚いて。それから、美しい世界をフィルムに残したいというのと、裏にある見えない「えっ、そういうものもあるのね」という「光と影」を写真で撮るようになりました。カメラも進化して動画も撮れるようになっていって、自分の中でこれは「神カットだろ」と心が動いた風景を長回しして撮影するようにして、素材として集めてきて、2016年、逗子海岸映画祭の最終日に実験的に編集して上映したんです。

SFJ :とても美しい映像で、あまり「影」の部分は感じないように思えるのですが。

確かに「光と影」はテーマになっているけど、『Play with the Earth』は、ちょっと陽気にしたかったんです。「反原発」とか「人はこうしなきゃいけない」みたいな感じにしたくはなかった。以前、自分も200万人の署名を持って、国会に行ったりしたんですが何も響かないわけですよ。利権問題とかが分厚い壁すぎてしまうから。だったら、そういうことを知った上で、今ある美しいところを皆で楽しくしていこうよ。観た後に、ポジティブになってもらいたい、と。それで『地球と遊ぼう』みたいなタイトルにしたんです。「ビーチクリーンしてゴミを拾おう」と勧めるより、奇麗な世界にみんなを誘ってあげれば、「この青い海を見た上で、そこにポイ捨てする気になれる?」みたいになれる。

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光と影」相反する世界が映し出される志津野さんの作品。そこには大きなメッセージが宿る Photo: Rai Shizuno

SFJ :映画もそうですが、写真集でも一貫して「水」にこだわっていますね。

何年間か原発への反対運動を突っ込んでやっていましたが、おのずと日本や地球が持っている美しい部分にフォーカスしていくと「水」にいきつく。「この地球はほぼ水で出来てるでしょ」。そして、「そういえば人間の体内も全部水でしょ」と。だったら、水を大切にしようと自然になる。美しさを知れば、もう汚す気にならない。「温暖化・環境問題の活動をやる」とかいう前に、まずそういう意識を持てれば。『ON THE WATER』という写真集を作りましたが、「その意識の上」でという意味。サーファーとかスキーヤーとか、自然に特化する人達は、無意識的に水の大切さに気付いているかもしれない。だからサーフィンのすごさとか素晴らしさとか、海の奇麗さだけでなく、そういう意識での自然との関わり方をもう少し一般の人達に伝えたいと考えたんです。「サーファーは格好いいから海に行った方がいいよ」ではなくて。「そもそも水で人間はできていてるし、それじゃあ、それはどこから来ているの?」という当たり前にすぎて皆が気づいていないことをもう一回考えてもらえたら。日本だけでなく、70億人、世界共通の話だぞ、と。

SFJ :『Play with the Earth』はどこで観られますか。

直近では10月10日に逗子アートフェスティバルで上映します。逗子市が共催しているパブリックなイベントから声をかけられるのはうれしいですね。それと、現在、アップデートの最新版を制作中です。このような社会状況なので、公演は行けない方にも、メッセージを世界のみんなに届けられるような形にしようと。アナログなレコードとセットで和紙のボックスに入れて。クリエイティブな部分で自分達が納得できるハイクオリティなものを作ろうと思い、クラウドファウンディング(https://motion-gallery.net/projects/PWTE2020)で賛同者を集めているところです。

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ライフワークとして制作し続けてきた映画『Play with the Earth』。予告映像はこちらから Photo: Rai Shizuno

SFJ :逗子海岸映画祭も、志津野さんが代表を務めるCINEMA CARAVANの仲間とともにスタートさせました。今では2万人もの動員数があって、地域を代表とするイベントになりました。行政も協力的で地元を上げて盛り上がっています。

そもそもそ映画祭を始めたのが、「自分達が何を考え、何を見てきたか」というのを、ただ映画を上映するというよりは、まず自分達の目線で見せるということでした。だけど、初めは市役所の対応もたらい回し。ヒッピーみたいな兄ちゃん達だから、最初は当然誰も信じてくれない(笑)。でも、3年、5年、続けていくうちに、信頼関係ができあがってきた。今では、行政からいろいろな声もかかるようになりました。数年前、逗子海岸で海水浴のマナーが悪くてビーチでの音楽や飲酒が禁止にになった。それで自分達はどうなるのだろうと、市長に問い合わせました。「映画祭は文化イベントとして認識してるので、思う存分、胸を張って続けて下さい」と。とても、うれしかったですね。

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10月10日、逗子アートフェスティバルで『Play with the Earth』が上映される。スクリーンで志津野さんの世界をのぞいてみたい Photo: Rai Shizuno

SFJ :志津野さんは逗子海岸に海のワークショップやマリンスポーツが楽しめるビーチハウスを作ろうと行政に働きかけたりと、社会のためにさまざまな活動をしています。その原動力は?

別に社会や誰のためではなく、自分が「あったらいいな」と一番強く思っているからです。新しい場所を作って、それがまた「長い時間をかけてどう人が変化をしていくか」と、ゼロからまた自分達が新たな場所を作っていったものを、ドキュメントしていきたい。で、それを発信に変えていく。「こういう空間があって、すると人ってどういう意識に変わっていって、どういうものがそこに生まれて、風景としてどう変わっていくのか」という、地元の逗子のもう少し内面から、自分達が種を撒いて、その種を皆でどう探していくか、という反応をじっくり見ていきたいですね。

SFJ :どうもありがとうございました。

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クリエテイティブな活動だけでなく、行政と協力しての新しいコミュニティをつくろうと活動するなど、精力的な志津野さん。その活動に注目していきたい

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