インタビュー

INTERVIEW-Vol.31 高久智基

モンゴルをはじめ、アラスカ、シベリア、南米のビックマウンテンを滑走し、90年代前半からエクストリームなフィールドで活躍するフリーライドスノーボーダーとして、その名を知られる高久智基さん。北海道、ニセコで代表を務める「POWDER COPMPANY GUIDES」では、雪山の滑走を目的としたバックカントリーガイドのパイオニアとして、「自然を楽しむことの本質を伝えたい」という思いを体現している。5年前には「海と雪山」を繋げる活動のひとつとして、出身地である湘南にも拠点を構え、今後は自らの発信する活動が、自然を肌で感じ、環境や循環を考えるきっかけになればと構想を温めている。ニセコと湘南を軸に全国を飛び回り、多忙な日々を送る高久さんに話を聞かせていただいた。

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高久智基/写真 横山泰介
1972年生まれ。神奈川県藤沢市出身。90年代前半からエクストリームな世界を中心にフリーライドスノーボーダーとして活躍。海外のビックマウンテンでの滑走経験を重ね、アラスカ急斜面での撮影や氷河キャンプなど、数多くの映像に出演。北海道ニセコを拠点とし、1999年より冬山滑走ガイド集団「POWDER COMPANY GUIDE」https://powcom.netの代表として活動。2017年には鎌倉、腰越にサーフィンとSUPのスクールやガイドを行う「POWDER COMPANY SHONAN」https://powcom.net/shonan/ を設立する。

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鎌倉の「POWDER COMPANY」にて。20歳までの自分を形成したこの土地に、世界の山々を巡り自然から得た恩恵を「横乗り」という文化を通して、ニセコで体得した「ガイディング」という形で、何か貢献できれることがあればと考えている。

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ) : 高久さんは、もともとは湘南、藤沢の出身だそうですね。ニセコに拠点を置いたきっかけは?

 1991年頃、知り合いになったプロスノーボーダーが、GENTEM STICKのファウンダーの玉井太朗さんの組織に属してスクールをやっていたんです。当時は二十歳くらいで選手としてやっていきたかったので、玉井さんが家を借りて、滑り手や身近な人を住まわせているという話を聞いて、友人を通じて「お世話にならせてくだい」ということで、門を叩いたんです。
 (フリースタイルの)選手として滑りながらも、玉井さんはじめ諸先輩方がやっている「パウダー」という世界観の中に何かあると思い。これを追求していった世界や与えてもらえる自然の美しさ、そこに合わせるスノーボーディングがもたらすもの、笑顔とか、湧き上がる達成感とか。何かわからないけれど、この世界にかけてみようと、その後、26、7歳の頃からは、パウダーを追いかけてアラスカに行ったり、世界中を回りました。

SFJ : ニセコにPOWDER COMPANYを設立した経緯と、そこに託した思いを教えていただけますか。

 もともと「POWDER COMPANY」というのは、湘南で同級生だった仲間と始めたスノーシューとリーシュコードの製造業の屋号でした。98年に一度解散してそれぞれの道を進むことに。その冬にニセコで雪崩が起こり、悲しい事故になりました。ガイドのひとりは弟のように可愛がってもらっていた人物で、わたしは選手という立場でガイドはやっていなかったのですが、時々彼が案内するのに同行したりしていました。当時、バックカントリーガイドというものを一般化させようと一生懸命やっていた、そのスノーシュートレッキングというツアーの中での事故でひとりの人が亡くなった。それがいかに社会に、そして家族や周りの人々にインパクトがあるかということを、自分は現場にはいなかったけれどとても近いところで感じることになり、ガイディングをする上で常に心に刻んでいることでもあります。
 それと並行してあったのが、ちょうどニセコに行って5−6年経った96、7年頃から、MOSSのTT(玉井太朗)モデルが、3年間、初期型、セカンド、サードと発表されていたんですが、古くからのスノーボーダーの一部で話題で、在庫を探してはみんなで乗っていました。2000年にGENTM STICKが立ち上がった際に、国内はフリースタイル一色で、世の中でこういったボードを売っていた店は少なく、雑誌でも取り上げられていなかった。これはGENTEMだけの話しではなくて、当時のフリースタイルブームから、いかに本質的なパウダーでの滑へと導いていくかが課題でした。でもその結果、この10年くらいは日本が世界をリードしていく形になりました。
 玉井さんは、買った方がちゃんと理解して乗ってくれることが大切だと強く言っていました。自分も滑りをメインでやっていたので共感する部分があり、まだガイディングは専門ではありませんでしたが、以前、ガイドの先輩と一緒に案内をする機会をいただいていたこともあり感覚が分かっていたので、新しくGENTEMを扱いたいと言ってくれた方達をリードして、まず乗り方を教えなくてはと思ったんです。
 当時はすべてが(ゲレンデ以外は)立ち入り禁止区域だったので、ガイドする先は立ち入り禁止区域に入るわけですけれど、ゲレンデと分け隔てなく技術を教えることが、自分のスタートだったんです。最低限の安全管理を行いながら、技術面を教えていく。GENTEMを広めていくために、そのライダーでもある高久智基も売りたいし。その中で自分ができることはなんなのだろうか。お客さん個々のスノーボードのスキルを通じて、安全管理を行いながらガイディグすることを腰を据えてやらなくては、と思ったのが「POWDER COMPANY GUIDES」の始まりです。そこから、今も変わってないですね。

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SFJ : 鎌倉の腰越の「POWDER COMPANY SHONAN」はどんな思いでオープンしたのでしょうか?

 ニセコでは、夏はSUP NISEKOといって川下りのガイドもやっているんです。ニセコでやっていることを湘南でできたらという思いもあって。自分がこれまで(ニセコでのガイディングで)培った経験が、湘南というサーフィンやスケートボードという文化のある場所で、何か役立つことがあるのならと。湘南は二十歳までの自分を形成してくれた場所でもありますし、独特の空気感や文化、相模湾を望む立地だったり、都会からも近いなど、基本的にとても好きなところなので、貢献と言うと偉そうですが、自分のいる意義が生まれたらいいなと思いました。
 ここを使ってくださるユーザーがいい時間を過ごせる場所として、そしてSUPしたいとか、サーフィンしたいという人を自然の中に案内できる場として、さらにここがニセコへの入り口になってくれたらなっていう思いもあります。

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SFJ : POWDER COMPANY SHONANでは、環境に寄り添った活動にも取り組んでいるとのことですが。

 近くの浜のビーチクリーンといった、小さなことから始めているのですが、持続可能な社会の実現に取り組むLIFE DESIGN VILLAGEの代表、河野竜二さんとパートナーシップを組んで、「For The Earth Project」という活動をやっています。POWDER COMPANY SHONANを拠点に、地球のためのアクションを起こしていくプロジェクトです。アースデイ東京の事務局長でもある彼の発案で、これまでに曹洞宗のお坊さん呼んで禅を通して自然との共生について考えるプログラムや、マイクロプラスティックの研究者のレクチャーと実際に海に出てビーチクリーンとSUPを体験するというイベントを開催しました。
 今後は個々でやるとか、環境問題の概念を流布するだけでなくて、わたしたちのコンセプトに賛同してくれる企業と一緒に小さい具体的な活動をできれば、それがより多くの人の目に触れるかなと考えています。例えばあの会社もあの会社もという形で、同じ日に同じような活動をしていたら、それが線でつながってはっきりとしたものとして見えてくる。どんな人でも生活の中で一定のカーボンは出すわけで、環境を考えるというのは、まず目に触れて自分の生活に置き換えて考えないと、その一歩は踏み出せないものかもしれません。ちょっとした意識の変化が、いつかは法改正などにもつながるんじゃないかなと。
 ここはそれを実体験する場所として、海のすぐ側だし、SUPも出来るし、みんなで集まったり、BBQをしたり。日帰りでも宿泊でも。例えば企業にサブスプリクション方式で使っていただいて、定期的に湘南で過ごす中で、わたしたちがサポートをするという形を考えています。「ビーチクリーンやりたい」ということのお手伝いもします。何か小さくても具体的な活動を企業が横並びで手をつなぐような形ですることで、社会に認知されていくということがステップとしては大事かなと今は思うんです。
 波とか雪って目に見えるのでわかりやすくて。雪や波をよりよく滑るために、技術、経験を使ってはいますけれど、そもそもの雪や波を起こさせる努力は何もしていない。たまたまその現象にフィットした場にいる。それを起こしたメカニズムというのは自然環境なんですよね。変わってよくなる可能性もないわけではないけれど、変わらないものを次の時代にパスしていくということが、この自然の恩恵を享受している責務かなと感じます。わたしたちはすでにいただいているところからスタートしているので、何がしか具体的な活動をして、プラスマイナスゼロなのかなと個人的には思っています。

SFJ : 自然の豊かさも厳しさも身をもって体験して、ガイドしてきた高久さんならではの切実な考えなのだと思います。大きなことにつなげるには、小さなことからみんなでやっていくことなのでしょう。そしてまずは波や雪に触れて何かを感じてみる体験ですね。お話をありがとうございました。

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@龍口寺

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