INTERVIEW-Vol.33 辻裕次郎

県境を越えて高知に入り少し行くと、生見の浜がある。さほど大きくもない波を滑らかにターンして、力強くリッピングを決めるサーファー。この海のどんな波も知っていると言わんばかりの余裕と謙虚さを持ち合わせた華麗な姿に、思わず目を奪われる。その彼がこちらに気づき、真っ黒に焼けた人懐っこい笑顔で挨拶をしてくれた。

徳島県、海部。「日本のリバーマウス」と名の知れた、世界有数の波が立つその土地に軸を置き、プロサーファーとして活躍する辻裕次郎さん。2014年、日本のプロサーフィンチャンピオンに輝くという経歴をもつ。コンペティターとしての優れた才能を発揮すると共に、フリーサーファーとしてサーフィンを愛し、地元の自然を大切に思い、10年、20年後を見越した環境保護の必然性を伝えようと行動を起こしている。我々サーファーの言葉を受け入れてもらうためには、まずは世間でのサーファーのもつ古いイメージを払拭し、諸外国ではすでに認識されている社会的なステイタスを得ることが重要だと考える。夏の暑さが本格的になる少し前、その地を訪れ、辻さんの根底にある思いを聞いてみた。

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辻裕次郎/写真 横山泰介
1985年生まれ。徳島県海部育ち。小学校5年生でサーフィンを始め、海部にベースを置くレジェンドサーファーであり、シェイパーの千葉公平と出会い、その導きで12歳の冬にはじめてのノースショアを体験。オーストラリアでコーチングを受け、プロジュニアツアーに参戦するなど、幼い頃から日本を代表するコンペティターとして活動する。20代の4年間は世界ツアーをまわり、29歳で日本のプロサーフィンチャンピオンに。現在は国内で行われるJPSA、WQSに参戦している。千葉公平のシェイプする303のライダーとして活躍。地元、海陽町でサーフショップと宿「ビーチハウス」を営む。

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自らが営むショップと宿の目の前の海で。徳島から高知へと続くサーフィン街道に面して、幼い頃から一緒に育ったサーファーで阿波藍プロデューサーの永原レキさんの店やプロサーファー、間屋口香さんが家族と営むショップが軒を並べる。

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN(以下SFJ):辻さんは、10代のはじめから海外に行くなど、他の地域でのサーフィン経験も多くあるかと思いますが、ベースをずっと海部に置いています。この土地に対してどんな思いがあるのでしょうか。

2歳からこの土地に住んでいますが、子供の頃はもっと人も少なく昭和の下町のようにみんなが家族みたいでした。親以外の人も世話をしてくれたり、怒ってくれたりしました。近所のサーファーのおじさんたちが、海への送り迎えをしてくれるような、居心地のいい中で育ちました。きれいな海や自然に囲まれていて、波のバリエーションも豊かですし、技術の高いサーファーもいる。サーフィンをするには素晴らしい場所です。正直、遠征から戻って徳島の飛行場から2時間の運転は疲れますが、街ではなくて田舎のよさがあるここがすごく好きです。

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SFJ:そんな土地が開発されていくのに先駆けて、サーファーという立場で自然環境に関する思いを伝えるという行動を起こしたそうですが、その理由はどんなことですか。

若い頃からサーフィンを通じて旅をして、外の世界を知ることで少しだけ視野が広がって、自然というものを、ずっと地元にいる人より客観的に見られるようになったのかもしれません。僕は海部の海から恩恵を受け、その自然がとても好きなので、それが破壊されてなくなってしまわないように、自分に何かできることはないだろうかと強く思いました。でも、実際には決まってしまった計画は、途中でどんなに反対してもなかなか変わることはありません。だから計画が始まる前に、工事がどんなふうに自然に影響を与えるかということも含めて説明をして、計画の決議を見送るように働きかけなければならないと。10年、20年先を見越した話をしなくてはならないと思いました。僕たちサーファーの声はなかなか行政には届きにくい。もし何かをしたいなら、まずは自分たちの態度を改めて考え、行動に移していくことだと感じました。

SFJ:サーファーの地位向上が必要ということでしょうか?

そうですね。社会の中でのサーファーは、昔のイメージが先行して、地元の一般の人や行政は聞く耳をもちません。かつてのサーファーは、ゴミの放置や宿で騒いだりした迷惑な存在だったと思います。僕は小さい時にサーファーだった父に連れられて移住してきて、サーファーとして育ったので一般の方たちとは常に壁がありました。そういったネガティブなイメージをなくしてもらい、環境や地元のことを真面目に考え、協力してやっていきたいと思っているサーファーがいることをまずは知ってもらいたい。話ができるようになれば、意見も取り入れてもらえるという希望があります。

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SFJ:まず辻さんをはじめ、サーファーのことを知ってもらうためにどんなことをしていますか。

自分たちからコミュニティに入っていくようにしています。若い頃は地域社会と交わってこなかったので、その交流の中で自分にない部分を補うような新鮮な話を聞けることもあり、いい勉強になっています。サーファーの仲間として一緒に育った、永原レキ君(*1)は地域に根付いた活動や環境活動にも参加しています。彼のおかげで、最近はサーファーじゃない一般の方たちに話を聞いてもらえる機会が増えました。

SFJ:具体的にはどういうことを伝えたいですか?

子供の頃から、海で泳いだり、魚突きをしたり、山に入って遊んだり、川ではうなぎや手長海老も獲りました。とてもきれいな自然環境の中で色々な経験をさせてもらったので、この自然を少しでもキープするための働きかけです。ここ数年、山の奥に発電のための風車を立てるという話や外国人が土地を買って何か事業を始めるという話がありました。環境に影響が出なければ良いのかもしれませんが、行政の条例をクリアすれば土地開発が進み、その先の影響までは配慮されず、最終的にないがしろにされがちです。何か計画が起こりそうなときに、単に反対するのではなく、中立の立場で、専門家(*2)の意見や環境アセスメント(*3)の情報、現地視察で得た情報を含め、将来的な見解を地元の人に伝えることができたらいいかと思います。自然に対する意識を持つ人が増えて、協力者が増えることで、最終的には大きな力になるのではないかと。

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SFJ: この地域で、土地開発によって自然に大きく影響を及ぼした事例はありますか?

ここ数年、海部周辺の河口に砂利が増えていて、最初は気にしていませんでしたが、苔がつくはずの石が砂利で埋まり、鮎の餌がなくなってしまったり、砂が沖まで流れてサザエやアワビの獲れる漁礁を覆ってしまうなど、環境に変化が起きてきました。実は50年ほど前、山を開発したときに林道を作ったのが原因だったようです。木を切った場所で地崩れが起こり、一回崩れると止まらなくてどんどん崩れていく。それが近年の大雨でさらに進んでしまった。漁師さんたちも仕事に関わってくるので気づき始めました。アオリイカの漁礁に生えるホンダワラという海藻が砂に埋まっていたという、ダイバーからの報告もあります。山奥で起きたことが水産業にまで影響している。けれどそのことを今止めることはできません。

SFJ:海部の漁港の護岸工事は、漁業関係者、サーファーの双方にとっていい形となったように見えますが。

やはり工事はなかったほうがサーフィンにとっては良かったのかもしれませんが、とはいえこの工事はサーファーもちゃんと守られた上での開発でした。サーファーのための駐車場やシャワーも設置されています。20年前に外から移住してきていたサーファーが中心となって、ほかのサーファーや地元で生まれ育った漁師さんたちと連携して、中立の立場で活動を起こして成し得た結果です。そんな例もあったので、僕たちも日頃から漁師さんや行政と関係を築いておくことが大切だと思っています。そうすれば何かあったときは言ってもらえるでしょう。

SFJ:実際に訪れてみてこの地域の海で感じたのは、サーファーのマナーのよさです。それはローカルのサーファーがとても礼儀正しくて、ビジターにも挨拶をしてくれることに始まっているのかもしれません。海岸のゴミに関してはビーチクリーンのための回収箱が用意されていたり。そういったことが、サーファーの社会的な地位をあげることにつながるのでしょう。さまざまな地域で、環境問題において行政で決議された計画との対立は、大きな問題となりがちです。サーファーならではのフットワークの軽さを生かし仲間と共に情報を収集して、中立の立場から双方が納得行く形での結果、自然が守られることを目指すという姿勢。今後、徳島から実例として全国に発信されていくのではないかと思いました。

今回はオブザバーとして、永原さんにも同席していただきました。お二人の地元での活動を応援します。また近況をお知らせください。

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*1 永原レキ 1982年生まれ。徳島県海部育ち。サーフライダーファウンデーションジャパン ディレクター。徳島県サーフィン連盟理事、海陽町体育協会サーフィン部部長、徳島県スポーツ推進審議会委員などを勤める。大学在学中には全日本サーフィン選手権大会で4連覇達成。卒業後は東京、米国、オーストラリアなど国内外で働きながら、サーフィンと音楽と芸術を学ぶ。現在は、藍染やサーフィンを通じて、行政に働きかけながら地域活性化に尽力。地元の文化や自然の魅力を世界に向けて発信している。「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT2016」で「注目の匠」として選出された。海部の海陽町で藍染スタジオ in Between Bluesを営む。

*2 徳島大学の教授など、専門家の意見の中には、「生態系の復元」を目標とした、自然界の構造を理解し自然に近づける形で進める、近自然工法などもある。

*3 環境アセスメント(環境影響評価)とは、大規模な開発事業などを実施する際に、事業者があらかじめその事業が環境に与えうる影響を予測・評価し、その内容について、住民や関係自治体などの意見を聴くとともに、専門的立場からその内容を審査することにより、事業の実地において適正な環境配慮がなされるようにするための一連の手続きをいう。(東京都環境局サイトより)

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