INTERVIEW-Vol.36 武知実波

ここ数年、次世代のサーファーたちが、全国各地で積極的に社会活動に取り組む傾向が高まっている。活動は環境保護をはじめ、地域や国の行政との歩み寄りによる、サーフィンを通じた地域振興の提案、サーファーの地位向上、さらにサーファーのための環境整備の実現へとつながっている。その先駆け的な存在として、2018年に徳島県のサーフコミュニティに注目、地元を代表する3人のサーファーに取材をした。今回はそこで登場していただいた武知実波さんに、活動のベースとなるひとつの考察、「アカデミックとサーフィンをつなぐ」という内容で少し詳しく話しを聞いた。日本の未来を変えるために、サーフィンを通して育まれるものとは。

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武知実波 / 写真 横山泰介

1993年生まれ。徳島県阿南市をベースに、世界トップのサーファーを目指して世界ツアーに参戦。2012年からはASP(現WSL)の試合を主に転戦。徳島大学大学院でスポーツ社会学を研究し、サーフィンを用いた地域活性化に関する「地域とサーフィン」を修士論文のテーマにして卒業。初代「阿南ふるさと大使」として、講演活動や学校でのサーフィンスクールなどを行い、サーフィンの普及とサーファーの地位向上に積極的に努めている。公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会にて勤務し、サーフィン競技運営に携わった。中学校、高等学校の英語教論一種免許状をもち、現在はオンライン個別学習指導、サーフィンコーチング、講演を事業とするTHE MINAMIを主宰。Patagoniaサーフィンアンバサダー。SFJアンバサダー。

THE MINAMI : theminami.com
LES : lessurf.com
Patagonia : https://www.patagonia.jp/ambassadors/surfing/minami-takechi
SFJ : https://www.surfrider.jp/tag/minami-takechi

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1980年から父、武知和一さんが営むサーフショップ LES(ローカルエナジーサーフショップ)の前で家族に囲まれて。オーナー兼シェイパー、サーフィンのコーチとしても活動している和一さんは、サーフィンをスポーツとして地元の教育に取り入れていきたいという思いのもと、40年以上前から県や市、行政に働きかけてきたサーファーのひとり。89年に阿南市サーフィン連盟が阿南市体育協会に加盟、99年には、徳島県サーフィン連盟が徳島県スポーツ協会に加盟。その活動の長年の積み重ねにより、サーファーの声が行政に届きやすいという基盤が培われてきたことで、98,99年には2年連続で、明石大橋開通記念のサーフィン世界大会が徳島県で開催となった。

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弟の武知虎南さんは1998年生まれ。2018年のALL JAPAN SURFING GRAND CHAMPIONGAMESメンズオープンで優勝に輝いた。サーファーとして活躍しつつも、国立阿南工業高等専門学校の機械科では流体力学と関連づけたサーフボードの研究で卒業論文を製作。卒業後は理系のアカデミックな知識と技術を生かし、シェイパーとしても頭角を現している。

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN(以下SFJ):実波さんは、サーフィンの普及や地位向上に、力を注いでいます。徳島大学の大学院でサーフィンの経済効果について研究をして、実際に地域の未来を考えるためにアカデミックとサーフィンをつなげるという考えを提唱しています。その重要性について、教えてもらえますか。

これまで日本ではアカデミックな視点でサーフィンを解釈するというようなことは、あまりなかったかと思います。そういった視点が必要という理由としては、今後、行政や地域と一緒にやっていく上で、より多くの人ができるスポーツにまでサーフィンをもってこなくてはならない。アカデミックな視点で、サーフィンが体験した人にとってどんな影響をもたらすか、「自分ならできる」と認知できる力である自己効力感を上げるなど、また実際にどれだけの人が海に来ているかをデータで見せるということが、客観的にサーフィンの特徴を捉えてもらうためのひとつの方法になります。だれにでも分かる形で「効果」を見せていくことが、サーフィンを広げることにつながるのではなかという可能性を感じています。

SFJ:大学院では、「サーフィンツーリズムを活かした地域活性化策の課題」という論文を東洋町生見海岸の地域デザインを事例にして書かれています。また大学院のときには海外での学会にも参加して、大きな気づきがあったそうですが。海外の研究などから、どんなことを学んだのですか。

大学院2年のときに、インドネシアで開催された学会に誘っていただきました。観光学といっても、たとえば宗教に関してとか自然、観光など、細分化されていて、そのなかにサーフツーリズムがあるからという話でした。ありがたくもめちゃくちゃハードルが高いなぁと思いつつ、まず日本語で書いた論文を英語に翻訳して発表しました。ニュージーランドやヨーロッパ(イタリア)などの参加者もいて、学問のひとつの分野としてサーフツーリズムを研究している。どう人を呼ぶかという研究をしている方もいますし、歴史の研究も。その場にいて感じたのは、「サーフィンがアカデミックな場で市民権を得ている!」ということ。そして「あぁ、いいんだ、これで!」と。それは研究のレベル(の高低に対する満足)ではなくって、「自分のやっていることには可能性がある。正しいのではないか」と思えたんです。日本語ではまだ先行研究が少なかったなかで、海外では研究している方がいて、「サーフィンでこれだけの人を呼べる」とか、「こんなカルチャーがあるのだ」と、ツーリズムという学問のなかでしっかり発信されていた。それを見て「こういった研究をする人が増えていったら、楽しいだろう」と思った衝撃的な経験でした。

SFJ : 諸外国のようにサーフィンを学問(アカデミック)にちゃんと落とし込んでいることが、社会に対する説得力を高めるということにつながっていくのでしょうか。

サーフィンはやった人しかわからない感覚や効果もあるので、それを数的に示して広くいろいろな人に理解してもらうためのひとつの言語になると思います。論文などでアカデミックに示し、それをサーフィンという軸をもって、多くの方々に見てもらうことが、これから必要なのだと思います。

SFJ:4年前にうかがったお話で、実際に徳島のひとつの海岸で、工事の計画があったのに、サーファーが働きかけたことで、サーファーのための階段ができたり、海岸が整えられたりという例。行政からの歩み寄りがあったという話がありました。それは実波さんが論文を発表した後のことですか?

それより前の話で、わたしが大学生のころです。阿南市サーフィン連盟が国交相の事務所と話をして、直に動いた。行政につないでくれるサーファーもいたそうです。徳島にはサーファーの中にもそういったブレインがいらしたりもします。きちんと行政や県と話をして、いちばんいい方法となった好例だと思います。

SFJ:以前、明石大橋開通記念のサーフィン世界世界大会が開かれた時も、お父様たちがその働きかけに尽力されたと聞きました。

はい、そのなかのひとりでした。徳島県サーフィン連盟の理事長が動いて、というところもありました。

SFJ:もともとサーファーと行政がつながる道ができていた中での歩み寄りだったから、きちんと話ができたということなのでしょうか。

そうですね、その基盤づくりを何十年もやってきた。その結果でようやくできた話だと思います。

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SFJ:実波さんの活動のひとつとして、学校のプールでサーフィンを教えるということをしていますが。それはどういったきっかけで始まったのでしょう。

今のわたしの活動を先導し手伝ってくださっている先生が、サーフィンが大好きな方で、自分の学校の子供たちにサーフィンを体験してもらいたいということで父の店に相談にいらして、15年ほど前から始めて、その活動をわたしが手伝わせていただいた、というのがきっかけです。その先生や、父が会長をしている阿南市サーフィン連盟がやってきたことを引き継いでやっています。

その後、大学2年生のときにわたしが通っていた徳島大学でサーフィン部を立ち上げました。部をつくった意義として「サーフィンを通して徳島とサーフィンのよさを発見してもらう」ということと同じくらい、「自分たちがサーフィンを楽しむことができる地元に、何かを還元することも大切だ」と考えていました。地域の大会を手伝ったり、子供たちに教えたりということを部の存在意義にしました。なのでそのプールでの活動も徳大サーフィン部にも手伝ってもらっています。最初はほぼボランティアでしたが、しばらくして県からの助成金によって人件費やレンタル代などの経費を少し賄えるようになりました。2022年は市の助成金を使って阿南市で6校、結果的に333人にプールスクールを行わせていただきました。

SFJ : その結果として、どんなことを目指しているのですか。

大学の研究で、サーフィン部がある高等学校を対象に調査をした結果、サーフィンから得られる顕著なこととして、自己効力感の向上がありました。また近年教育現場でのサーフィン活動を通して、サーフィン活動が影響するレジリエンス力にも注目しています。レジリエンスとは、何か困難に直面して折れかけても、柳の木のように折れない、うまく適応できる力のことなのですが。これだけ多様で生きるのに困難が多い時代に、レジリエンスを高めるというのが教育のひとつのテーマになっているのでは、と思います。実際にプールでサーフィンスクールをやっていると、「自分はやったことないし、できないと思う、でも授業だからやらないといけないからその時間はやってみる」という生徒もいました。あとでインタビューをしてみると、「やってみたらできた。楽しかった。またやりたい」という感想が出てきました。「諦めない。難しいと思ってもやってみる」という気持ちが生まれ、実際にやってみることで成功体験が彼らのなかでできたのだと思いました。この先困難なことに出会っても、「でもサーフィンもできないと思っていたけれど、やってみたらできた。じゃあ、これもやってみようかな」というような好例にしてもらえたらいいと感じました。

教育現場における新たな挑戦をサーフィンで。これは日本全国どこででもできることなので。色々な地域で取り入れていただいて、子供達に還元できたらと思います。今は地元、徳島県、阿南市でやっていますが、身体的にサーフィンをやって楽しんでもらうことも大事なんですが、それ以上にサーフィンというものをやったことがあるという感覚をもってもらいたい。たとえば、自分の地元にサーフィンができる海があるのを知ることや、そこからチャンピオンが出ているとか、そういうところで改めて地元に愛着や自信をもってもらうことができればと思います。それによって若者の県外への流出を止めることにもつながるのではないかと。

さらに海に入ってもらって、実際にプラごみがあるのを見てもらうと、環境問題教育にもつながるでしょう。たとえ最初はプールだったとしても、サーフィンを身近な場所で始めてもらうというのは、そこから先が色々なものにつながっているという可能性があるんです。それを今後のヴィジョンとして、地元からできるだけ広げていきたい。2022年から日本サーフィン連盟は日本スポーツ協会に準加盟しました。ゆくゆくは雪山のスポーツ、スキーが国体の正式競技になっているように、サーフィンも国体正加盟などを通して、地域に愛され、地域の人が自分たちのスポーツだと思えるようなものにまで昇華させることが、わたしの最終的な目標です。

SFJ:確かに広く知られて、日本のサーフィンの底上げをすることも大切ですね。

国体など、地域のスポーツとなることで、プロサーファー として活躍している方たちが地域で指導者として活躍できる場を増加させられる可能性があります。学校現場で教育者として受け入れられることが、サーファーの社会的地位向上に直結し、またプロサーファーが自分たちの土地で市民権を得ていくというのにつながる。これからは指導者を育て、層を厚くしていかなくてはならない、と。

SFJ :アカデミックとサーフィンをつなげたり、サーファーの地位向上を促すというのは、遠回りかもしれないけれど、結果、自然環境につながっていくということですよね。

ほんとうにそうです。学校教育では、学問は教科に分かれていますが、サーフィンという媒介を通して、そういう教科を通り越して学習ができることがあります。とくに環境教育についてその可能性を強く感じます。環境教育や体育など、子供のときから学んだり、体感することがすごく大事だと思うので。それをかつ教育現場でやるということによって説得性が生まれる。それが、わたしが教育現場でやりたいといういちばんの理由です。応援してくれる方がいらっしゃるので、それがモチベーションですね。

SFJ : 生まれ育った地域との繋がりもすごく強いですよね。ご家族の影響もありますか。

地域性なのかもしれません。根底にあるのは、地元を愛する気持ちがすごく強いのですよね。この土地が自分のものという感覚ではなく、海の近くに昔から住んでいる漁師さんを見ていたりすることも関係しています。先人たちが本当に大事に守ってきたものを、使わせてもらっているという感じがあるんです。海をすごく大事にしたいという気持ちがあって。じゃ大事にするためには、サーファーに対する信頼なくしては、(地域社会とは)対話ができない、という状況だったので。わたしの父親の世代は悔しい思いをたくさんしてきたというのがあると思うので。だから、父もよく言ってきたのですが、「サーファーの社会的地位向上。そのために動かなければならない」と。市単位で体育協会に登録したり、県で体育協会に入れてもらったり。なるべく多くの人にサーフィンを清く正しいスポーツであり、海遊び、アクティビティだということを理解してもらうために、外(の社会)を見て活動をしてきたのだと思います。それはすぐに見返りのあるものではなく、わたしの世代だったり、次の世代に伝えたいという気持ち。その様子を間近に見てきたので、ほんとうに父はもとより、わたしの今の活動は両親の影響をうけてきたことは断言できます。自分のためにというよりも、利他的な考え方は父からきている。自分がやることが社会的地位向上につながるにはどうすればいいだろうか。わたしはそういう立場だから、どういうふうにやっていくのが、サーフィン業界や地域のためになるだろうか。そんな視線は学生時代からもっていたのだと思います。

SFJ: とても頼もしいお話です。今後の活動に期待しています。ありがとうございました。

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