INTERVIEW-Vol.40 河村ファミリー

日本でも指折りの人気を誇るサーフスポット湘南・鵠沼。日本サーフィン発祥の地ともいわれ、独自の波乗り文化を育んできた。その担い手の中心にいるのが河村正美さん、息子の海沙さん、沙理亜さんだ。鵠沼を代表するサーファーファミリーとその家族を支える奥様の由加里さんに話を聞いた。

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河村正美(中央)・由加里(左)・海沙(右)・沙理亜(後) / 写真 横山泰介
ロングボードの元チャンピオンで、シェイパー、ミュージシャンとマルチに活躍する河村正美(まさみ)さん。「マミさん」の愛称で親しまれて地元鵠沼のサーファーではお馴染みの存在だ。奥様の由加里さんとの長男・海沙(かいさ)さん、次男・沙理亜(さりあ)さんもサーフィンの世界で活躍。プロサーファーでYouTubeでも人気を呼んでいる海沙さんが沙理亜さんとともに、2022年、サーフショップ「River Village」を地元でオープン。3人とも生粋の鵠沼サーファーだ

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鵠沼を代表するプロサーファーの一人、河村海沙さん。SNSやYouTubeでの認知度と人気はプロサーファーの中でも屈指
 
SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ ):昨年、海沙さんと沙理亜さんは鵠沼海岸の側でサーフショップ「River Village」をオープンさせました。どのようなきっかけでショップを始めたのでしょうか。

海沙:「River Village」がある場所は、元々レジェンドサーファーの林(利夫)さんが営んでいたお店「ホクレア」がありました。一昨年お亡くなりになってしまったのですが、生前、林さんにはいろいろと相談させてもらっていました。で、ショップをやるのなら「応援するよ」と言っていただいて。それまでは「どうしようかな」という感じでしたが、その言葉で「やろう」という意思が固まりました。後は、やはり信頼できる仲間が必要だなと。最初に思い付いたのが沙理亜。弟に店長をやってもらうのが一番いい。

沙理亜:最初、地元でお店をやるのは変な気持ちでしたが、やはりうれしかったですね。

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プロサーファーのコーチングも手がける海沙さん。サーフィンのセンスはプロの仲間からも一目置かれる。photo: Kenyu

SFJ:正美さんは、何かアドバイスをされたのですか。

正美:僕はサーフィンもそうですけれども、根本的にはあまり言わないですね。「あれ?」という時だけは、ちょろっと口を出す。僕も最初、鵠沼で「TIZ」というお店を出したわけですよ。で、ロングボードのコンペティターとしてツアーを回って、二人を連れて行き今のプロ達と交流させたり。そういう環境の中で育ってきているから、サーフィンは自然の流れで二人の中に入っていきましたね。その間に海沙がプロになったり沙理亜もいろいろ考えて動いている中で、お店を出したっていうのは、僕としてはやっぱり感慨深いところがあって。簡単に言えば、世代交代じゃないですか。鵠沼は意外とローカルが世代を超えてやっているお店がないんですよ。もしかしたら、うちらが初めてかもしれない。

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河村ファミリーを牽引する正美さん。そのメローな人柄とニュートラルな目線から、多くの地元サーファーから慕われている。

SFJ:鵠沼にはサーフショップが多くありますが、それは意外です。まもなく1周年を迎える「River Village」は評判も上々ですね。

正美:しっかりと土台を持ってやっていますからね。海沙や沙理亜とか、みんなサーフィンができる子達がやっているから、そういう信頼もありますし。YouTubeでの発信だったり新しいこともしていますが、スクールも一人一人目が届くようにやっていて、一斉に集めてドーンとやるようなことはない。お客さんも子どもを連れてきて家族同士でつながったり。二人とも下の世代の子ども達の面倒見がいいんですよ。昔のサーフショップって本当はそうだったんですよ。今またこの人達がそれを戻してくれているんだな、と僕は安心しています。

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ロングボードのチャンピオンに輝いた正美さん。サーフボードの長さにかかわらず、スタイリッシュなラインを波に描く

SFJ:由加里さんは、二人がサーフショップを始めるにあたって、何かアドバイスは。

由加里:もう大人だし、特に。ですが、やるからにはちゃんと、それも地元でやるんだったら、きっちりいろんなことをしていってほしい、とは思っています。いろんな意味で「恥ずかしくないように」と。サーフショップは「適当でいい」とか「いい加減でいい」というイメージもまだありますが、接客なりスクールなり一つ一つの物事に対して丁寧にやっていってほしいなと思っています。

正美:今のところ、スクールのお客さんのリピート率も高いですし、みなさん気持ち良く帰っていただいているから、ちゃんとやっていますよ。

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次男の沙理亜さん。「River Village」の店長として仲間のスタッフとともに店を盛り上げている

SFJ:先ほど、正美さんも言っていましたが、鵠沼はメジャーなサーフタウンなのに、親子でサーフィンの業界にかかわって、しかも成功しているケースは少ない。河村家の家族の関係性がいいということなのでしょうね。二人がサーフィンを始めたきっかけは。

海沙:僕は、家族で海に行くことが多かったので、それがきっかけですね。

正美:始めたのは5、6歳だね。ボディボードから始まって、それに立ち出したから、「板作らなきゃ」となって。

沙理亜:僕は二人がやっていたから。仲のいい同級生でやっている子がいなかったので、ちょっと遅れて始めたんですけどね。

正美:実は、僕は二人に全然、サーフィンを教えてないんです。サーフィンはそういうものじゃないな、と思っているから。やはり見て育つものじゃないですか。自分もそうだったから。まあ、サーフボードは与えましたけど、誕生日のたびに「板を造れ」と言われていました(笑)。

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父や兄に負けず劣らずのサーフィンセンスに恵まれた沙理亜さん

SFJ:家族3人がサーファーということで、奥様そして母親として、由加里さんが大変だったこと、良かったことは。

由加里:大変だったのは、予定が立たないことですかね。良かったことは、家族の連帯が取れていることかなと思います。話題がそろっている、熱く語れるものがある。多分、父親と息子ってそういうのがなかったら、接点がないですよね。

正美:僕は海沙とか沙理亜より年下とも平気でトリップへ行くんですよ。一つの波に対してどこのポイントに行きたいというだけで、お互いに普通に楽しむことができる。それがサーフィンの良いところではないですか。それは多分、これからも絶対変わらないと思うので。

由加里:ジェネレーションを超えてつながる、みたいな感じがありますよね。例えば、正美君がかわいがっていた人達が、今度は海沙や沙理亜をかわいがる、みたいな。年代をまたいでつながっていくというところが、サーフィンのいいところなのかなと思います。

沙理亜:鵠沼は歳が結構離れていても、皆仲がいい感じですね。

正美:鵠沼はサーファーがもう3世代目に入っていて、さらに歴史ができてきています。教えるのではなくて、親がしっかりとやっていれば、その辺は自然と分かっていくと思います。上の世代の嫌なところも見ていると思うので、これは自分達はやりたくないな、というのも。ひと昔前は、鵠沼は子ども達のサーファーが少なかったんです。で、この子達が出てきて、さらに今とても増えていますよ。

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妻として母として河村ファミリーを支える由加里さん。正美さん曰く「家族の中心です」

SFJ:キッズサーファーが増えている理由は何ですか。

正美:カルガモの親子みたいに、チョコチョコと海沙の後を付いていく子達が増えていて。すごく面倒見がいいですからね。そういうのを見ていると、やはりつながっているんだな、と思って。子ども達は本当に宝のような大事です。鵠沼はサーフタウンと呼ばれていますが、四国や九州と比べれば自然や波が雄大ではない。それでも湘南には本当に波乗りの文化がすごくある。それはいきなりポンと生まれたわけではなく、世代で引き継がれてきました。3世代目ぐらいになると、それはもう自然に染み付いていると思います。

SFJ:二人はどう思いますか。

沙理亜:下の子達がどんどん育って、もっと盛り上がるといいですね。そうすれば、この町もどんどん盛り上がっていくでしょうし。

海沙:今、キッズが鵠沼には集まって来ていますが、生粋の鵠沼の子はあまりいない。僕達がサーフショップをやったことをきっかけに、キッズがどんどん増えていったらいいですね。やりやすい環境は整っているから、サーフィンを楽しめる人達がもっと増えてもらえたらうれしいな、と思いますね。

沙理亜:「River Village」は下の世代が育ついい環境の場にしたいです。今は実現していないですけど、試合とかもやって、もっと盛り上げて。お店の建物にはスケボーのランページもあるので、一緒に上手く盛り上げて、どんどんいい形を作っていきたいなと。「River Village」から、子どもだけでなくもちろん大人も多くのサーファーが巣立っていけばもっといいなと思っています。

SFJ:皆さんにとって鵠沼とはどのような存在ですか。

正美:生まれ育った所だし、思いは強いです。鵠沼の良さは子ども達も分かっているし、つなげていきたいな、と。本当に良い所なので。

由加里:私も、結婚する前から住んでいましたが、結婚もして子どもも生まれて家庭も持って、ここで30年以上住んでいるということを考えると、やっぱり第二のホームタウンみたいな感じになっていますね。そういう意味でも大事にしていきたいし、「ああ、帰って来たんだな、ここ」という安息の地でありますね。

沙理亜:自然もあるし、街もあるので、僕はめっちゃ落ち着く場所です。移住されてくる方も多いですし、それだけ良い土地なんでしょうね。

海沙:いろんな所にトリップへ行ってきても、最終的には鵠沼にいるとすごく落ち着いてリラックスできます。何も知らずに育った鵠沼ですが、大人になってもいろんなことがあって学びもあるし、地元の人達もすごく優しいし、自分的にはいい経験をさせてもらっていて。これからもどんどん学んで、鵠沼の良さをSNSとかで伝えて、いろんな人に広げていければいいかなと思います。

SFJ :どうもありがとうございました。

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サーフィンを通して沙理亜さんや仲間と鵠沼を盛り上げていきたいと海沙さんは語る。鵠沼の波乗り文化は次の世代にも脈々と受け継がれていくことだろう。photo: Kenyu

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