New!!INTERVIEW-Vol.53 小松吾朗 / 高田翔太郎

2025年夏、わたしたちは記録的な猛暑を体感した。この経験は、たとえばそれまで自然を意識せずに暮らしていた人々にとってさえも、わたしたちが「気候変動の時代」に生きていることを認識せざるをえないきっかけとなったかもしれない。この地球上で起こっている未曾有の現象に早々と警鐘を鳴らし、2007年、プロスノーボーダー、ジェレミー・ジョーンズを中心とした仲間たちによって、気候変動による雪山への影響を懸念した環境団体、Protect Our Winters (POW)が米国で設立された 。世界13ヶ国に続き、2019年に日本でProtect Our Winters Japanの活動がスタートした。

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強い日差しが、緑豊かな山々に降り注ぐ8月、POW JAPAN代表理事である小松吾朗さんと事務局長の高田翔太郎さんに話を聞くために、長野県白馬村を訪れた。小松さんには、日本でこの活動を立ち上げたきっかけとその元にある考えを、高田さんには、実際の活動の内容について語っていただいた。

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小松吾朗 / 写真 横山泰介
1976年生まれ。北海道ニセコ町出身。4歳からスキーを始め、12歳で両親と共にカナダ、ウィスラーに移住。以来スノーボードを続け、17歳からプロスノーボーダとして活躍。29歳の時に日本に戻り、白馬を拠点に活動する。

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高田翔太郎 / 写真 横山泰介
1985年生まれ。北海道札幌出身。小学生の時にスキーを、中学生でスケートボードやスノーボードを始める。大学時代からの東京、30代でのニュージランドを経て、帰国後、POW JAPANの立ち上げに関わる。サーフィンとスノーボードの奥深さを感じつつ、白馬を拠点に、「農」のある暮らしを営む。

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN(以下、SFJ): 今回は、POWの代表である小松さんと、事務局長である高田さんにお話をお聞きするのですが、まずは小松さん自身のお話から聞かせていただけますか。10代のはじめから、16年間、カナダで育ったそうですが、帰国の際、なぜ白馬に拠点を構えることしたのでしょう?

小松吾朗さん(以下、小松):
白馬は山の険しい地形と雪に惹かれました。年をとってから来るところでない、ここで挑戦したいと思ったんですよね。以来、20年くらい住んでいます。

SFJ:カナダで長年過ごしたことは、今の人生に影響がある思いますか?

小松:僕の中でのベースになっているのだと思います。カナダの人は自然に対するスタンスが日本人より近いと感じていて、たとえば熊が日本で出てくると多くの場合、駆除という対処ですが、向こうでは極力生かす方向で保護したり、接触しないようできる限りの努力をします。住んでいた町は、白人の社会とその横にネイティブの人たちの場所がありました。ネイティブのことを、ファーストネーション(*1)と言うのですが、高校の生徒数も半々でした。僕は基本、白人社会の側に暮らしていましたが、ネイティブとも波長が会って、集落によく行くようになり、彼らの生活に触れることで考え方を教えてもらった気がします。それが今の環境に対する考え方のベースになっています。

SFJ:その感覚が若いうちから、身体に入ってたんですね。それを日本に帰ってきて、発信したいということに思い至ったのでしょうか。

小松:POWの活動は7年目になりますが、実は最初は、真っ白い状態で、環境団体を立ち上げるってどんなことか、はっきりとした方針もなく始めました。でもいい意味で想像を超えて発展しているのが現状です。思った以上に、応援してくれる人がいて、広がりがあるので、この輪の中だけでなく、この輪が大きな輪の一部となってやらなくては進まない。心の中にあったことを「やれる時」が来たということだと思います。

SFJ:その中でのミッションとは? 

小松:実は気候変動に特化して興味があったわけではなくて、シンプルに自然を守るというスタンスをみんながもっていた方がいい、という考えがあります。気候変動は誰にでも関係あることなので、そこを切り口にすれば、より多くの人と繋がれて、必然的に「自然をどう守っていくか」がサブジェクトになる。これまでの社会は自然を壊し形を変えて、人間の世界を広げてきました。でも今は全ての人に関わる問題に向かって、自然を守るというカタチが必要だと思うんです。

SFJ:そう思うようになったきっかけはどういうことでしたか。

小松:僕はスノーボードもサーフィンも、人間と自然を近づけてくれるすごく面白いことだと思っていたので、プロのスノーボーダーとしてそのスポーツを広められることをいい仕事だと思ってやっていたのですが、ある時、ネイティブのおじさんに「お前の仕事、すごくいいな」っ言われて、ああその通りだと思っていたら、「でも、お前のそれが環境破壊つながってるの、分かってるのか」って言われて、すごくショックを受けたんです。スキー場作るとなるとそれまで誰も見向きもしなかった場所が、高額で扱われることになる。ゴルフ場もそうなのですが、土地開発によって、もともと彼らの場所だったところが奪われることや環境破壊に広がることを止めようと頑張っているネイティブの人が居ることを知ったんです。自分たちが良かれとやっていたことが、全く違う側面をもつことを知り、どうしたら良いのかと悩みました。そんな時、母に「自然を守るスノーボーダーになればいい」と言われて、自分にできることを始めたいと思ったんです。

SFJ:その思いがPOWの活動に繋がるまで、どのような経緯だったでしょう。

小松:POWは、元々、ジェレミー・ジョーンズが始めた動きです。アメリカでのPOW立ち上げの直後に、彼が白馬に撮影で来ていた際、会って話をしたました。僕が以前、カナダでスノーモービルを使ってバックカントリーをやっていて、環境負荷が高いのを感じ、雪の多い日本でなら歩いてバックカントリーができるというのもあり、日本に戻ってきたという話をしたら共感してくれたんです。その数年後に「POWをやらないか」と、その関係の方から話をいただきました。日本での立ち上げの動きがジェレミーの耳に入ったみたいで、「吾朗だったらいいね、やればいい」って言ってもらえて。僕自身は表に出さずに自分のやり方で活動を進めていたところだったのですが、はっきりとしたカタチで団体としてやる活動は個人での活動とは全く違い、応援してくれる人も入りやすいと感じて、ゼロからより良いと思い踏み切りました。

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SFJ:高田さんは、POWの活動には準備の段階から、関わっていたのですよね。

高田翔太郎さん(以下、高田):2018年以前に、グローバルな動きは知っていました。ニュージランド、オーストラリアなど続々とできていて。日本は雪文化、積雪量、雪の質など、格別にいいところなので、ないのがおかしいくらいでした。ジェレミーと吾朗さんが会っていたこともあり、機は熟していたんでしょうね。

SFJ:POWは最近ではどのような活動を行っているのですか。

高田:23-24シーズンからスキー場のビジネスを運営をよりサスティナブルにするということに取り組んでいます。サスティナブル・リゾート・アライアンス(*2)を立ち上げて、スキー場と連携するほか、お客さんにも知ってもらうためのメディアへのアプローチなどもしています。地元白馬の八方、五竜のスキー場等では、スキー場で使う電気を、再生可能エネルギー由来のものに変えるといったような取り組みをすでにやってきていました。さらに知見や情報を広くシェアするために、みなさんに知ってもらうためのプラットフォームを作るといった動きも行っています。アライアンス(*3)自体は、POWで考えてやっています。

SFJ:POWの組織としてのゴールとは。

高田:気候変動を止めるというだけがゴールではないと思います。それはとても大事なことで、人類がそこに向かっている動きの一部にはなりたいのですが、それだけではありません。活動するなかで、スキー、スノーボード、サーフィンなど、アウトドアのコミュニティを飛び越えた、いろんな社会の人たちと会うことも多いのですが、その時に自分たちが自然で感じているものや自然から得て来た経験、その強みを生かして、社会づくりに関わることが必要だと感じる機会も多いんです。自然との接点が取りづらい世の中で、僕たちはとて恵まれていて、当たり前と思っていたことが、社会にとって意味がある。なのでPOWの組織を大きく広げたいというよりは、同じような担い手がどんどん出てくるようなことが、目指しているところかもしれません。POWの取り組みや、関わる人たちのアクションで、インスピレーション受けてとか、勇気づけられてというアウトドアのプレーヤーの人たちが増えてくればいいなぁと考えています。

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小松:僕らが気候変動を止めるのではなくて、みんなが止める社会をつくりたい。そのきっかけになれたらいい。みんなが同じような思いをもつことがゴールだと思っています。僕らが人生注ぎ込んで止まるなら、それでも良いと思うけど、そういう問題でもありませんし。

SFJ : この夏の猛暑も、多くの人がいよいよそういったことに気づくきっかけになったかもしれませんね。POWは社会に向けて、道標になりうる存在です。

高田:さっき、吾郎さんが気候変動を解決できる社会にしていきたいって言いましたが、僕らの周りには、自然が身近にある人も多く、環境に配慮した生活をすでにしていると思うんです。そういった意識を持つことももちろん大事だと思うのですが、僕がPOWの活動を通し学んでいることは、社会の創り方って、もっといろんなアプローチがあるということなんです。行政とつながる、いろんな方にお話しをしにいく、ほかにも、メディアに向けて「これは大事な問題だから、もっとニュースなどで報道してください」と伝えることなども。そして自分たちのビジネス、たとえば、スキー産業なら、その中でちゃんと変化していくことも大事です。自分が個人でできること以上にいいアプローチできるというのは、POWという団体があるからということを、今、ちょうど僕らも学んでいる段階なんです。それを皆さんと一緒にできると、より広がっていくのだと期待を持っています。

小松:スキー場の環境整備というのが、今までのカタチでは不十分だと分かってきて、POWの活動を通すことで、その一部に自分たちユーザーが携われると思っています。僕らみたいな団体だと、スキー場にもアプローチできるし、こういうふうに変えていこうという話もしやすいです。スキー場は、白馬のような土地だと町で一番大きいビジネスなので、そこが変わることで町も変わるし、町が変われば他にもどんどん波及していく可能性もある。今、インバウンドで海外からスキー場を目掛けて来る人も多いので、そこが変わることが必要だし、インパクトがあります。それが巡り巡って、国全体の形を変えていく力になることもありえるのではないかと思えます。無理して何かやるのではなく、自分たちの住んでいる環境にアプローチすることで、そこまで辿り着くかもしれないという形はなかなかいいのかなと思います。

SFJ:せっかくですから、海外の方が来た時に、日本の雪山の人たちの所作というか、山への向き合い方、日本人の自然観のようなものを知って、もち帰ってもらえると良いですよね。そういうことができたらまた大きなうねりも生み出せるかもしれません。雪山と海、違うフィールドであはありますが、目指したいところですね。

高田:POWはグローバルからの要請と言うのはほとんどないので、地域文脈、日本の今の状況に合わせて、活動を自分たちで選べていたと言うのは、プラスだったかなと思います。逆に今は「POW JAPAN面白いね」っていう感じで、海外から評価してもらっていて。それはよかったと思います。言っていただいたように、クライミングやスノー、サーフィンなど、いろんな分野から同じよう動き出てくると僕たちも嬉しいです。今の世の中では、ひとつの分野だけやっている人は少ないじゃないですか。「自然の中で遊ぶのが好き」っていう大きな括りだと思うので、連携できるところがきっとあると思います。

SFJ:今後も一緒にできることがあったら、コミュニケーションをとってやらせていただければと思います。ありがとうございました。

*1 カナダに住む先住民の一部を指し、ヨーロッパ人が到来する前からこの土地に定住していた民族を敬意をもって表す言葉。独自の文化や言語、信仰をもつ。
*2 サスティナブル ・リゾート・アライアンス(SRA) 気候変動から「冬」を守るため、スキー場と滑り手(スキーヤー、スノーボーダー)が協力して脱炭素化・サスティナブル化を目指すネットワーク、およびプラットフォーム。再生可能エネルギーの導入、フードロス削減、環境教育などを通じて、スキー場の持続可能な運営と、スキー・スノーボードを未来へと継続させることを目指す。
*3 アライアンス 複数の企業や組織が共通の目的達成のために提携や連合をすること。

POW JAPAN https://protectourwinters.jp/

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