INTERVIEW-Vol.23 花井祐介

湘南をベースに様々な分野で活躍を続けるアーティスト、花井祐介さん。その作品は国内はもとより海外でも大きく評価されている。花井さんが手がけた”ONE HAND BEACH CLEAN UP”のヴィジュアルは見る者の心をとらえ、今やサーフライダーファウンデーション・ジャパンのアイコンとなった。自らのアート、そして海へ対する思いを聞いた。

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花井祐介 / 写真  横山泰介
アーティスト。1978年生まれ。横浜出身。リック・グリフィンが手がけたグレートフル・デッドのアルバムカバーを見てアートに興味を持つ。以後、独学でイラストを描き始め、シニカルながらハートウォーミングな作風は、海外で評判を呼び、アメリカ、フランス、オーストラリア、ブラジル、台湾、イギリス等で展示を行う。現在は 作品制作を中心に、Vans、Pendleton、Gregory、BEAMS等、国内外のブランドにアートワークを提供している

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花井祐介さんが、アーティストの道を歩み出すきっかけを作った成瀬一郎さんがオーナーを務める逗子「surfers」にて。自らが手がけたONE HAND BEACH CLEANのポスターとともに

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ ) :まずは絵を描き始めたきっかけを教えていただけますか。

子供のころから絵を描くのは好きでした。アーティストの道を進む直接のきっかけは、18才ぐらいの時です。「surfers」(注:逗子にあるライブハウス、レストラン)のオーナーの成瀬(一郎)さんが、横浜の金沢文庫で「The Road And The Sky」というカフェバーを作る、という話になって。僕、高校生から成瀬さんにサーフィンに連れて行ってもらい教えてもらったりとお世話になっていたんです。それで手伝うことになって。それこそ、みんなで穴掘って、コンクリートをうって、基礎を作って、壁を建てて、本当にDIY。で、出来上がるころに、「看板どうする」となって、「この中で一番絵が上手いのは誰だろう」と。僕はしょっちゅうふざけて似顔絵を描いたり落書きして遊んでいたから、成瀬さんに「お前が描けよ」と言われて。看板だけでなく、オープン用のメニューやライブのフライヤーやポスターも作ったりしました。

SFJ :そこが、花井さんのアーティストとしての出発点だったんですね。作品とサーフィンが結びついていったのは。

そのバー自体も、コンセプトがサーフィンやカリフォルニアだったので、集まってくるお客さんも、湘南界隈のサーファーがたくさん来て、ドンチャン騒ぎしているような店だったんです。で、店のキャラクターを作りたいということになって、サーフボードを持ってる男の人の絵を描いたりとか……。「カリフォルニアの海沿いにあるお店」みたいな感じのイメージで作っていたんですよね。僕もサーフィンが好きだったし、ちょこちょこ自分の絵の中にサーファーが出てくる、感じになったんです。ただ、「サーフィンの絵だけを描こう」と思っているわけでもありません。ここ10年くらいは、依頼された仕事は別として、作品でサーフィンをメインテーマにしたことはほぼありません。

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湘南、藤沢市辻堂にあるサーフライダーファウンデーション・ジャパンのオフィスに、新しく完成した「海の寺子屋」。今後、事務局長の石川拳大(左)が中心となって、子供達に向けて海ゴミのワークショップや学びの場として機能していく

SFJ :それは意外ですね。花井さんを「サーフアーティスト」ととらえているファンやメディアも少なくないのでは。

僕はカテゴライズされるのが嫌いなんです。サーフィンは好きだし絵も描くのも好きですが、「サーフアーティスト」みたいに言われるのが、すごく「面倒臭いな」と思って。「何で? じゃあサーフィン以外は描いちゃいけないのかな」と。個性の強い人を描くのは好きなので、自分の中で絵を描く時にストーリーを作って、この人はサーファーなのかもしれない、とかはありますが、サーフィンをしている絵は描かないですね。

SFJ :サーフライダーファウンデーションとは、どのようにかかわるようになったのですか。

2007年からカリフォルニアで始まった「HAPPENING」というグループショーに参加していて、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、シドニー、パリ、東京を巡回したんです。そのグループショーがサーフライダーファウンデーションをサポートしていて、その展示で僕の絵を観て本国から「Rise Above plastics」つまり「プラスチックに立ち向かおう」というテーマで絵を描いてほしいと依頼がありました。僕もサーフィンが好きだし奇麗な海でサーフィンしたいし、自分が何か力になれればと思って協力しました。

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海の寺子屋のヴィジュアルも、花井さんが提供してくれた。江戸時代の寺子屋の先生をイメージしたキャラクターがなんともユニークだ

SFJ :サーフライダーファウンデーション・ジャパンでは、花井さんが描き下ろした作品を”ONE HAND BEACH CLEAN UP”のヴィジュアルに使用させていただいています。サーファーだけでなく一般の反響も大きくて、花井さんの絵の影響力を改めて実感しています。

サーフライダーファウンデーションの活動が、もっとメジャーになればいいですよね。サーファーって周りからしたら多分とっつきづらいと思うんですよ。「何かサーファーが言ってるけど、自分達は関係ないな」ということが多いと思うから、サーファーだけではなく、海が好きだったり、まあ海が好きとか関係なく、ゴミを捨てないのはもちろん、プラスチック製品を無駄に使わない、というのがもっと当たり前になれば。その発信源がサーフライダーファウンデーションだったら格好いいし。そのための、お手伝いができたらうれしいですね。

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古民家をリノベーションした花井さんのスタジオ。1階には、60年代のヴィンテージボードやロングボードなど、さまざまなサーフボードがストックされている、波に合わせて自由に楽しむのが花井さんのサーフスタイル

SFJ :花井さんは海の環境についてどのように感じていますか。

初めは単純に、「奇麗な海でサーフィンがしたかった」というところですね。自分が波待ちしている時に、周りにゴミが浮いていたら気分が悪いな、っていうぐらいだったんです。だけど、マイクロプラスチックの問題とか、自分で調べていくとどんどん、何か危機感が……。子供が生まれてから特に感じます。子供ってやっぱり海が好きなんですよね。もう砂浜に連れて行くだけでテンション上がって走り回って、波打ち際でバチャバチャやって。子供達が大きくなって、その子供達の環境がひどくなっているのも嫌だし、できたら今より奇麗な環境にしたい。そう考えると、自分達がやらなきゃいけないことがあるのかなと、ちょっとずつ勉強して変わっていっている感じですかね。

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スケッチした絵をスキャンして、コンピュータで着色するのが、花井さんの制作スタイル。アナログとデジタルの融合から、独自の表現が生まれる

SFJ :個人的に実践されていることは。

海の帰りにゴミを拾うのは当たり前として、後は普段の生活ですね。皿を洗うのもスポンジは使わない、なるべくペットボトルは買わない、水筒を持ち歩く、マイクロプラスチックが出ないように洗濯をする……とか、本当にたいしたことではないですけど。それと仕事では、僕は「グリーンルームフェスティバル」には、2回目から出展しているんですが、最初のお客さんは「海のこと、わかってるよ」というサーファー達ばっかりだったんですが、海やゴミのこととかもそんなに気にしていない、すごく若い人達がたくさんくるようになってきました。逆に、そういう違う層がたくさん入って来ているから、そういう若者達に伝えるチャンスなのかな、とも思っています。今、海で拾ったゴミをためていて、作品に使うこともしていますよ。

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現在、ビーチで拾ったゴミを材料に使って、作品制作をする新しい試みも行なっている。作品の完成が楽しみだ

SFJ :最後にサーファーにメッセージをお願いします。

そんなに偉そうなことは言えないんですが……。自分の遊び場が汚くなるのが嫌だったら、自分でちゃんと考えて行動をした方がいいんじゃないかな、と。海にくるゴミの8割は街のゴミだと聞くので、海だけでなく普段の生活でも気を遣いたいですね。ゴミが風で飛ばされたり、家庭からマイクロプラスティックが川に流れて海に……。結局、海で拾っていたところで、しょうがないじゃないですか。根本的なものをまず変えないと。街でゴミが出ていなければ、海にもこないです。

SFJ :どうもありがとうございました。

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笑顔を絶やさないメローな人柄ながら、自分に厳しく妥協を許さずに作品制作に取り組む花井さん。日本を代表する現代作家の一人として、今後も世界で活躍していくことだろう

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