INTERVIEW-Vol.42 小山内隆

30年以上にわたりサーフィンメディアの一線で活躍している小山内隆さん。サーフィン雑誌など紙媒体が減少する中で、精力的に活動している数少ないサーフィンジャーナリストである。『海と暮らす Seaward Trip』を出版したのを機に、サーフシーン、海の環境問題に対する思いをうかがった。30年以上にわたりサーフィンメディアの一線で活躍している小山内隆さん。サーフィン雑誌など紙媒体が減少する中で、精力的に活動している数少ないサーフィンジャーナリストである。『海と暮らす Seaward Trip』を出版したのを機に、サーフシーン、海の環境問題に対する思いをうかがった。

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小山内隆 / 写真  横山泰介

1971年生まれ、東京出身。サーフィン専門誌とスノーボード専門誌でともに編集長を歴任した後、フリーランスとしての活動へ。現在は一般誌、専門誌で幅広く特集やコラムを手がける。2023年6月、『海と暮らす Seaward Trip』(イカロス出版)を上梓

SFJ:『海と暮らす Seaward Trip』を出版されました。とても、おもしろく拝読いたしました。自分が知らなかった海に関するさまざまなトピックに触れることができました。この本を発刊したいきさつを教えていただけますか。

そもそものきっかけは、メンズファッション雑誌『OCEANS』でビーチカルチャーをテーマにした『Seaward Trip』という連載をしてきたことにあります。2012年に始まった時は写真と300文字ほどのテキストで構成する1ページのコラム形式でしたが、数年前、4ページのインタビュー記事にリニューアルしたんです。コンセプトも世界観を広げて、サーフィン+α、海の世界に関する疑問を毎号掲げて、それに答えてくれるであろう識者に教えてもらうものに。執筆した記事の本数が溜まってきたところで書籍化したい思いが強まり、イカロス出版さんの協力もあって一冊にまとめることができました。内容はインタビューを20本、コラムも300本ほどある中なら20本を厳選して再録したものになっています。

SFJ:それは濃い内容ですね。どんな方に読んでもらいたいですか。

例えばサーファーであれば、波のことはよく知っているけれど、海のことはあまり知らない、という方。ヨット乗りなら、沖合のことは熟知しているけれどビーチ環境はそれほど関心を持てていないという方とか。海で遊ぶ人達全体にいろんな海のとらえ方、見え方、遊び方があるんだよ、ということを知ってもらえるといいですね。環境に関しては、それほど意識していません。インタビューした人達が自然に出てくる言葉を拾っただけであって、意図して「異常気象をどう思いますか」とか「海ゴミ問題についてどう思いますか」みたいな質問はしてきませんでした。

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『海と暮らす Seaward Trip』の出版を記念して、この夏、都内にてエキシビションを開催

SFJ:何百本というコラムのストックがある中で、どのような基準で選んだのでしょうか。

例えばカーメル・バイ・ザ・シー(米国)やサン・セバスチャン(スペイン)という土地を紹介していますが、「あっ、ここに私も行ってみたいな。行ったらこういう経験ができるんだろうな」ということを読者が自分に投影できる、ことを狙いました。

SFJ:わかりました。ぜひ多くの方に読んでいただきたいですね。小山内さん自身のこともお聞きしたいんですけが、大学卒業以来、サーフィンメディアにかかわってきましたが、志したきっかけを教えていただけますか。

学生時代、流行っていたことをきっかけにサーフィンとスノーボードを始めたんです。大会に出てプロを目指すといったストイックな感じではなく、滑りと、それに付随する音楽やファッションを楽しむという感じでした。スノーボードであれば、オフシーズンにアルバイトをして資金を貯めて、冬は出来る限り雪山にいるという学生生活でしたね。サーフィンには『エンドレスサマー』という名映画がありますけど、スノーボードにも90年代につくられた『RIDER’S ON THE STORM』というムービーがありました。内容はまさに『エンドレスウインター』。カリフォルニアを起点に、冬が終わればアラスカへ行き、北米のシーズンが終われば南半球へ。そんな1年を通して終わらない冬を追い求めるスノーボーダーの姿に影響を受けたものですから、卒業を迎えるにあたっても、週末にしか海や雪山に行けない生活が受け入れがたかったんです。とはいえ卒業しないとならない。そこで受けたのが愛読していたサーフィンやスノーボード雑誌を発刊していたいくつかの出版社でした。縁があったのがマリン企画という会社で、当時月刊誌だった『SURFIN’LIFE』に配属。そこから海の世界とのつながりが始まり、現在にいたっているという感じですね。

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サーファーはもちろん、研究者、リゾート開発者、教育者、環境省官僚、アーティストなどさまざな方の海に対する「声」を一冊の本に。『海と暮らす Seaward Trip』(イカロス出版、1980円(税込))

SFJ:そもそもサーフィンを始めたきっかけは。

地元が東京の大崎なのですが、高校から大学時代、東京のサーフシーンがすごく盛り上がっていて、大田区の蒲田とか、わりと近いエリアにサーフショップが多くあったんです。で、地元の先輩や同級生に「やろうよ」と誘われて海へ行ったのが最初。でも満足にテイクオフすらできず終わってしまったというのが原風景でした。ちゃんとサーフィンに向き合うようになったのは『SURFIN’LIFE』に入ってからなんです。

SFJ: 30年近くサーフィンジャーナリストとして、サーフシーンをご覧になってきて変化は感じますか。

東京オリンピックで五十嵐カノア選手と都築有夢路選手がメダルを獲得して、その背中を追いたいという親子が増えたように、スポーツサーフィンは勢いを見せているように感じます。一方で気になるのは社会的に海離れが進んでいることですね。海水浴客の減少トレンドが長年続いていることは報道されていますが、サーファーにしろダイバーにしろ、生物多様性のフィールドワークを重ねる研究者にしろ、海を体験する人が減っていくと利用者の視点から海を考える人も減ってしまいます。そこが気になるところですね。

SFJ:環境問題に関してのサーファーの意識はどうでしょうか。

以前からビーチクリーン活動を積極的に行なっていると思いますし、環境を意識してオーガニックなライフスタイルを送る人も多くいます。これからは、そのような考え方や生活の仕方を、サーファーの間だけで共有することに留まらず、地元の町など社会にもっとフィードバックしていけるといいのかな、と思います。

SFJ:なるほど、わかりました。ここ30年でコンペシーンも大きく変化してきました。いろんなプロサーファーと間近に接してきて、小山内さんも影響を受けたのでは。

僕が『SURFIN’LIFE』の編集部に入った1990年代中ごろは、世界のトップシーンで活躍する日本人サーファーが不在の時代。その状況を打破しようと、日本のトッププロが世界の扉をノックし続けていました。小川直久、福地孝行、脇田貴之、浦山哲也、河野正和をはじめとする当時の日本を代表するサーファーたちは、それこそ人生を賭けて、生活のすべてをサーフィンに捧げていて……。かつ同世代でしたから、彼らのような熱くストイックな生き様には大きな影響を受けましたね。「自分は何のプロだろう?」と自問したこともありましたし、書くことや編集のプロでありたいなと思ったのも、彼らの姿があったからなんです。

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海の現状を認識しながら、将来に目を向ける小山内さん。サーフィンジャーナリストという枠を超えて、さまざまなプロジェクトにチャレンジしている

SFJ:サーフィンジャーナリストとして、サーフィンの可能性、今後に期待することはなんでしょうか。

本を出して感じたのは、漁業関係者や釣り人、ダイバー、カヌーイストなど海にかかわる人は多い中、母数としてサーファーはだいぶ大きいのだな、ということでした。それと再確認したのは、それぞれが横の関係性を持てていないということ。ジャンルや属性を超えて、海はいろいろな豊かさを与えてくれる、海っていいよね、ということを共有できると、日本の海は今とはまた違った状況を迎えられるように思います。というのも一つの状況として、本書内で九州大学の清野聡子准教授が指摘されていますが、国として海岸を利活用するための予算をもう割くことは難しい、というものがあります。となると各自治体が、「うちの街にはビーチが大切なんだ」という気づきと自覚を持って街づくりを行なっていけるかどうかで、未来の海岸環境は変わっていくことになります。そして波のあるビーチを子供世代やそれ以降の世代につないでいくためには、その街づくりにサーファーがしっかりと入っていくことが必須となるんです。

SFJ:わかりました。小山内さんが将来的に取り組みたいプロジェクトはありますか。

一つは、ビーチマネジメントの調査というのをしたいと思っています。

SFJ:ビーチマネジメントとは何でしょうか? 聞き慣れない言葉ですが。

海外では、海岸を開発するにあたり、きちんとマネジメントされているという話を耳にしまして。それがどういうことなのかを取材してみたいのです。例えばカリフォルニアのサンタバーバラ。港をつくるにあたり、手付かずのビーチに生まれる影響を科学的に分析し、これだけの砂がここに動くから、その動いた砂をこれほどのスパンでここへ戻しましょう、という話が事前に行われていたというんです。まさしくビーチをマネジメントしたうえでの開発で、一か八かでもなければ、出たとこ勝負でもない。といった事例を取材し、文献に残したいなと考えています。それと、オーシャンフェスタを年一回でもいいので開催してみたい。

SFJ::オーシャンフェスタとは。

海を楽しむオーシャンアクティビティはいくつもありますが、一堂に介して楽しめる機会がないので、そのような体験の場を作りたいのです。サーファーがアウトリガーカヌーに挑戦する、都心に住む未就学児の初サーフィンをサポートする、といった具合ですね。またサン・セバスチャンのような海辺にある先進的文化都市の都市計画担当者に登壇していただくようなシンポジウムとか。日本の海、ビーチの未来を少しでも明るいものにする一助を担えるといいかな、と思っています。

SFJ:それは楽しみですね。本日はありがとうございました。

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