インタビュー

INTERVIEW-Vol.29 緑義人 -前編

奄美大島の南東部に位置する瀬戸内町嘉徳。山に囲まれ、手付かずの自然を残す入江には、16世帯が暮らす小さな集落がある。絶滅危惧種に指定されているオサガメの産卵上陸が日本で唯一記録されたという浜を懐に抱き、奄美固定種で絶滅を危惧されるアマミノクロウサギが多く生息する森を背負う土地。2021年7月に「奄美大島、徳之島、沖縄北部及び西表島」がユネスコ世界自然遺産として登録され、嘉徳はそのバッファーゾーン(緩衝地帯:世界遺産を保護するための周辺区域)に指定された。そんな重要な場所の浜で、現在、護岸工事が始められようとしている。一方で、自然と共存する活動が、地元の人々やサーファーたちによって行われている。奄美で生まれ育った緑義人さんは、そんな様子を見守りつつも、自然のあり方を淡々と案じている。緑さんに島を案内してもらいながらうかがった話を2回に分けて紹介。自然と共存するための活動、サーファーとしてできることを、改めて考えさせられるきっかけになるかもしれない。

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緑義人/写真 横山泰介
1971年、奄美大島生まれ。手広海岸の近くでペンションGREEN HILL SURF& CAFÉオーナー。https://greenhill-amami.com 奄美の海を熟知したサーフガイド。16歳からサーフィンを始め、コンペシーンでは、西日本サーフィン選手権大会4位、全日本サーフィン選手権大会5位、ローカルコンテストで数回の優勝という成績を残す。サーフムービー『SIPPING JETSTREAMS』(テイラースティール監督)の中で奄美で撮影されたシーンにも登場。

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ):緑さんは、16歳でサーフィンを始めたそうですが、30年前と今では、奄美はどのように変わりましたか。

その頃は平日の昼間に浜にほとんど人はいませんでした。いるとしたら夏休みか学校が休みの日。観光客も珍しく、サーフィンをしに来る人も移住者も今のようにはいなくて、サーフショップもなく、サーフボードもない中で、誰かのお下がりをみんなで買ってシェアして使っていました。

SFJ:ご両親がGREEN HILLをオープンされた頃は?

21年前ですが、その頃から少しずつお客さんが増えて、その後サーフィンがブームになりサーファーの数も増えたので、6年前にカフェのある新館を開きました。2011年の東日本大震災のあとや今回のコロナ禍でリモートワークが出来る人など、この10年で移住の人の数もだいぶ増えました。

SFJ:島に活気がある感じがしますね。ところでさっき近くの海岸にゴミ箱がありましたが。

「ワンハンドアクション」というビーチクリーンの活動があって、あの箱は拾ったゴミを一時的に保管する場所として置かれています。回収と処分は行政がやっています。

SFJ: いつ頃からどんなきっかけで始まった活動ですか。

海でのマナーや路上駐車の問題など、サーフィン人口の増加による色々なトラブルを解決するために、2年前に奄美サーフィン連盟が出来ました。連盟と行政が話し合って、ゴミの保管箱を作ることになったんです。僕はアドバイザーとして連盟の立ち上げに関わりました。

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SFJ:緑さんはもともと行政の仕事に携わっていたということですが。

以前、市役所の土木課河川港湾課で臨時に働いていたことがあります。護岸工事や港を作るといった部署で、台風の災害で河川が崩壊した時の対処や港に消波ブロックを入れるといった業務でした。

SFJ: そんな経歴がある立場からの視点で、今回の嘉徳浜での護岸工事の経緯(*1)に関して、何か感じることはありますか?

嘉徳浜調査会(*2)の調査データによると、砂浜は減っていなくて、2014年の台風で砂を失った砂浜の背後にある砂丘には、砂が戻ってきています。実際に砂浜は広がってきていて、護岸を作る必要はないように思います。ただ、行政に勤めた経験から、一度決まった計画を変えることは難しいことも想像がつきます。

SFJ:嘉徳はサーフポイントでもありますが、島の中でこれまで護岸建設などで影響があったり、サーフポイントでなくなった場所はありますか?

空港が出来て北にあったブルーエンジェルポイントは砂がなくなり、昔のようにはサーフィンができなくなりました。ただ、空港がないとみんなが困るからなんとも言えませんが。港が出来たり、消波ブロックが入って、潮の流れが変わり、砂浜がなくなったりした場所もあります。嘉徳も護岸を作ると砂がなくなるのかな、とも思います。

SFJ:奄美大島は、今年の夏にユネスコ世界自然遺産に登録されました。そのことを島のみなさんは喜んでいますか?

そうですね。観光客が増えて、町が潤ってきているので。

SFJ:経済効果があることは良いことですよね。

自然を残しながらうまく観光業が対応していくことが大切だと思います。

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自然の砂浜の生態を生かした護岸を取り入れた用海岸で、鎌倉と奄美のデュアルライフを送る、ドローングラファーの中村豪さんと。中村さんは、環境省の仕事で世界自然遺産を撮影する仕事のため、沖縄・奄美を回って来たところだ。嘉徳浜ではスーパー台風をはじめ、大波の日のサーフシーンを空から撮影してしている。「トリプルオーバーの波が立つ日でも、ビーチは完全に残っていました。それが何を意味するか詳しくはわかりませんが、映像で記録することだけが、自然を守る活動に僕が協力できることだと思っています」と。

SFJ:嘉徳の護岸工事計画は、世界自然遺産登録が決定する前に立てられたものだそうですね。登録決定をきっかけに行政側に工事を見直す動きがあったほうがいいのではないかと思いますが。現在、今日明日に重機が入るという話になっていて、この段階では工事を止めるのはなかなか難しいのでしょう。自然の砂丘に近いものを作るようなことも考えられます。景観や生態系に配慮した護岸というものなど、このまま工事が進むなら、そういった部分での可能性を提案して、活かしてもらえたらいいですよね。

正直、僕としては、護岸工事をしなくてもいいと思うんです。台風で砂が動いたら、ダンプカーで砂を浜に戻したりすればいい。そのほうが仕事も早くて、自然もそのままの姿で残ります。

*1 嘉徳浜での護岸工事の経緯

2014年、台風18号と立て続けに発生した台風19号による高波で嘉徳の浜は砂丘上の墓地すぐ手前まで波が届き、浜崖ができた。集落の住民は墓地まで侵食が及ぶことへの恐怖から、当時集落に住んでいた26名が署名をする形で護岸工事の嘆願書を町に提出し、町が住民に聞き取り調査をして県に護岸工事を要望。工事が決定する。それに対して「奄美の森と川と海岸を守る会」が発足され、工事の見直しを呼びかける運動が始まる。2017年、県が嘉徳海岸侵食対策事業検討委員会を立ち上げ各専門家による再検討の結果、2018年に180メートルの護岸工事計画が決定。工事開始決定を受け、県民からなる原告が工事への公金支出差し止めを求めて県を提訴。他にも一部集落住民を含めて多方面から工事計画見直しを求める要望書や意見書が町・県に提出されているが、工事は進行しており、2021年9月には浜での整地作業などが開始、今日明日にも護岸を建てる本作業が開始される状態となっている。原告弁護団(嘉徳浜弁護団)の依頼により行なわれた海岸工学の専門家調査の結果では、現在嘉徳浜では侵食は起きておらず、護岸工事が行われると、逆に侵食を招き、後背地が危険にさらされるとされている。また、検討委員会が実施された2018年と比較して、浜幅が大きく回復し、状況が大きく変化していることもあり、守る会や原告及び弁護団は再度開かれた協議を行うことを求めている。

*2. 嘉徳浜調査会
2019年11月に発足。海岸工学の専門家(有限会社海岸研究室/東京)の指導のもと、住民や有志が中心となり、嘉徳浜の状況を定期的、定量的に調査している。砂浜を測量し形状の変化や砂の溜まる場を記録。GPSを使って波打ち際や海に流れ出る川の形状を調べる。砂の動きを観測するための定点観測や、台風の波がどのような影響を及ぼすかを10秒に一度撮影をするタイムラプス撮影などを行う。集めたデータは有限会社海岸研究室に送られ解析される。嘉徳浜調査会は調査の結果から、2014年以降、浜の砂は大きく回復しており、砂浜がもつ波浪の吸収力とアダンの植樹により、効果的に防災が可能としている。調査は現在も継続している。

●Surfrider Foundation Japanは、Save The Waves Coalitionと連携し「奄美の森と川と海岸を守る会」が現地で行う奄美大島・嘉徳浜の保全活動に賛同し、UNESCOの世界自然遺産登録の評価機関であるIUCNに対し以下の声明文を届けました。

>>> https://www.surfrider.jp/information/6934/

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